医薬品開発論3
目的
医薬品開発は科学技術の進展と共に,創薬の方法も天然物からの薬理活性物質の探索からヒトゲノム情報を利用した分子医学に基づくものへと急速に変遷している.また医薬品開発において,医薬品の真の薬効をヒトで評価するためには治験の概念を理解し,これを統計学的に処理する能力が求められる.そこで本講では,『1.バイオ医薬品とゲノム医療』として,タンパク質,遺伝子,細胞等を医薬品として適正に用いる治療法に関する基本的知識と倫理的態度を身につけ,併せて,ゲノム情報の利用に関する基本的知識を修得する.また『2.治験』では医薬品開発において治験がどのように行われるかに関する基本的知識とそれを実施する上で求められる適切な態度を修得する.さらに『3.バイオスタティスティクス』では医薬品開発,薬剤疫学,薬剤経済学などの領域において,プロトコル立案,データ解析,および評価に必要な統計学の基本的知識と技能を修得する.
カリキュラム関連
薬学モデル・コアカリキュラムC-17-(5) に相当
注意
先端医療として注目されている遺伝子治療や再生医療,またゲノム情報の利用に関する現状や問題点を理解し,今後の医薬品開発への視点を養ってほしいと思います.近年,治験コーディネーター(CRC)が薬剤師の専門職として認知されつつあることから,治験に関わる項目(新GCP,臨床統計学)を理解することは薬剤師の職能の向上につながるものと思います.また,創薬に関しても,薬がどのように評価されるかを知ることは意味があると考えます.
目標
| 1. | バイオ医薬品とゲノム医療
- 【組換え体医薬品】
組換え体医薬品の特色と有用性を説明できる. 代表的な組換え体医薬品を列挙できる. 組換え体医薬品の安全性について概説できる.
- 【遺伝子治療】
遺伝子治療の原理,方法と手順,現状,および倫理的問題点を概説できる.
- 【細胞を利用した治療】
再生医療の原理,方法と手順,現状,および倫理的問題点を概説できる.
- 【ゲノム情報の創薬への利用】
ヒトゲノムの構造と多様性を説明できる. バイオインフォマティクスについて概説できる. 遺伝子多型(欠損,増幅)の解析に用いられる方法(ゲノミックサザンブロット法など)について概説できる. ゲノム情報の創薬への利用について,創薬ターゲットの探索の代表例(イマチニブなど)を挙げ,ゲノム創薬の流れについて説明できる.
- 【疾患関連遺伝子】
代表的な疾患(癌,糖尿病など)関連遺伝子について説明できる. 疾患関連遺伝子情報の薬物療法への応用例を挙げ,概説できる.
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| 2. | 治験
- 【治験の意義と業務】
治験に関してヘルシンキ宣言が意図するところを説明できる. 医薬品創製における治験の役割を説明できる. 治験(第Ⅰ,Ⅱ,およびⅢ相)の内容を説明できる. 公正な治験の推進を確保するための制度を説明できる. 治験業務に携わる各組織の役割と責任を概説できる.
- 【治験における薬剤師の役割】
治験における薬剤師の役割(治験薬管理者など)を説明できる. 治験コーディネーターの業務と責任を説明できる. 治験に際し,被験者に説明すべき項目を列挙できる.
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| 3. | バイオスタティスティクス
- 【生物統計の基礎】
帰無仮説の概念を説明できる. パラメトリック検定とノンパラメトリック検定の使い分けを説明できる. 主な二群間の平均値の差の検定法(t- 検定,Mann-Whitney U検定)について,適用できるデータの特性を説明し,実施できる. χ2検定の適用できるデータの特性を説明し,実施できる. 最小二乗法による直線回帰を説明でき,回帰係数の有意性を検定できる. 主な多重比較検定法(分散分析,Dunnett 検定,Tukey 検定など)の概要を説明できる. 主な多変量解析の概要を説明できる.
- 【臨床への応用】
臨床試験の代表的な研究デザイン(症例対照研究,コホート研究,ランダム化比較試験)の特色を説明できる. バイアスの種類をあげ,特徴を説明できる. バイアスを回避するための計画上の技法(盲検化,ランダム化)について説明できる. リスク因子の評価として,オッズ比,相対危険度および信頼区間について説明し,計算できる. 基本的な生存時間解析法(Kaplan-Meier 曲線など)の特徴を説明できる.
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計画
| 1. | 上記到達目標に従い講義を進める,講義回数は到達目標の内容により異なる. |