2008年度 医学部 医学科 学部課程 — 3年(前期, 後期)

社会医学 / 予防医学・公衆衛生学

教授・中堀 豊, 教授・有澤 孝吉, 講師・上村 浩一, 助教・勢井 雅子

目的

1. ライフステージに対応した健康管理に関する基礎的知識および基本的態度・習慣を習得する.
2. 人間集団の健康・疾病状況を疫学的な観点から理解するための基礎的知識および能力を身につける.
3. 地域保健・医療・福祉における医師の役割を理解し,その活動に参加するための基礎的知識および基本的態度・習慣を身につける.
4. 学外実習および課題研究を通し,一般人の医学・医療に対する考え方を理解し,共感的態度,問題解決を見据えた態度・習慣を身につける.

概要

予防医学・公衆衛生学は,疾病の発症・進展における社会的な因果関係の解明と社会的な対策およびその効果の評価を基本的な役割としている.この際,個人のライフスタイルに関連した要因も集団の中で観察し,社会的要因として理解する必要がある.このような観点から,健康の保持・増進から疾病予防,QOL(生命の質)の向上に至るまでの包括的保健医療の概要について学ぶ.また,人間集団に対する健康管理的アプローチの方法として,疫学的な考え方や保健医療福祉活動の目的・課題についても学ぶ.
講義は,総論,各論および特論からなる.また小グループごとにテーマを設定した課題研究を行う.研究課題に応じて学外実習を行う.

授業方法

講義:プリント,板書,スライド

実習:
1)課題研究[テーマの設定とそれぞれの実験・調査・フィールド活動など.研究結果のまとめと発表,討論および報告書作成](小グループ毎に設定する)

目標

1.健康管理に関する基礎的知識および基本的態度・習慣の習得
  1. 生涯健康管理におけるライフスタイルと健康の関連を具体的に説明できる.
  2. 健康管理の概念と方法を説明できる.
  3. 障害の概念,分類,評価および対策の概要を説明できる.
  4. 疾病予防・障害予防の段階(第一次予防,第二次予防および第三次予防)を,具体例を挙げて説明できる.
  5. 健康教育の目的と方法を説明できる.
2.疫学的な考え方の理解および基礎的知識の習得
  1. 我が国および主要先進国の人口構造,疾病構造の推移と特徴を説明できる.
  2. 健康指標,疫学指標の公衆衛生学的意義とその活用法を説明できる.
  3. 感染症の現状と動向を述べ,その対策の基本的原則と関連法規の役割を説明できる.
  4. 主な非感染性慢性疾患の疫学的特徴を述べ,リスク要因及び予防対策を説明できる.
  5. 非感染性慢性疾患を対象とする疫学方法論の種類,特徴および問題点を説明できる.
  6. 環境要因とヒトの健康との関連について述べ,健康障害を防ぐための対策について説明できる.
  7. 労働とヒトの健康との関連について述べ,労働者の健康を守るための対策について説明できる.
  8. データの種類と分布に応じて正しい統計的方法を適用してデータの要約,検定が行える.平均値,割合の区間推定が行える.
3.地域保健医療福祉活動に必要な基礎的知識および基本的態度・習慣の習得
  1. 地域保健医療福祉の組織と活動の概要とそれらの基盤となっている法規について説明できる.
  2. ノーマライゼーションの意義とその概念の変遷について説明できる.
  3. 保健医療福祉関係職種の職務および保健医療チームの一員としての医師の役割(保健所長や学校医の役割,医師会活動など)を説明できる.
  4. プライマリ・ケアの概念・機能と包括的保健医療の意義を説明できる.
  5. 国際保健医療協力に関連する主な国際機関を挙げ,その活動を説明できる.
4.学外実習を含む課題研究を通して
  1. 学外実習および課題研究で接する保健医療福祉従事者をはじめとする様々な社会的立場の人々と適切なコミュニケーションをとり,調査を円滑に実施できる.
  2. 学外実習で患者,老人,心身障害者などに接する際に,同じ人間として相手に共感し受け入れる態度でコミュニケーションに努め,日常生活動作,医療面,看護・介助面,経済面等についての問題点を把握し,その解決策を討議し報告できる.
  3. 課題研究の実施に際し,調査を計画,実施し,結果の分析,報告ができる.

計画

大項目中項目内容担当者
1-3.公衆衛生総論および各論公衆衛生序論
健康・疾病・障害の概念と社会環境,地域保健・医療・福祉と医師の役割・関係法規
中堀 豊
4-8. 〃総論(疫学・母子保健・成人保健・健康管理)
健康の概念の歴史的変遷,疫学の概念,疫学の基礎的知識,疫学指標,健康管理の概念,健康教育,健康相談,健康診断,生活習慣病の現状と動向,リスク要因,生活習慣病の管理,老人の地域ケア,母子の保健管理,環境因子と胎児障害,小児の保健・福祉
中堀 豊,非常勤講師
9-14. 〃総論(疫学)
疫学の定義,先人の業績(John Snow,高木兼寛),疾病頻度の測定(罹患率,累積罹患率,有病割合),致命割合,標準化(年齢調整死亡率,標準化死亡比),記述疫学(3つのW,time,place,person),分析疫学,コーホート研究,患者対照研究,オッズ比,オッズ比が累積罹患率比の近似値になることの証明,疫学調査の型と特徴,介入研究,寄与割合の公衆衛生上の意味(曝露者,人口),原因の考え方,偏り,交絡とその制御方法,因果関係判断基準,妥当性
有澤 孝吉
15. 〃保健統計
罹患率,累積罹患率,有病割合,粗死亡率,標準化,年齢調整死亡率,標準化死亡比,致命割合,受療率,生命表関数,平均余命,死因別死亡率,人口静態統計,人口動態統計,合計特殊出生率,再生産率
16-17. 〃学校保健
学校保健の現状と動向,学校医と保健管理,保健教育,学校保健法,学校教育法
中堀 豊
18-19. 〃老人保健・老人福祉
老人保健法,老人福祉法,介護保険法,在宅ケア(在宅医療など),施設ケア
勢井 雅子
20-22. 〃EBM
1)問題の定式化「判断を求められている課題をまとめる」 ,2)情報検索「課題に基づいて最も妥当な情報を探す」,3)批判的吟味「手に入れた情報を批判的に吟味する」,4)判断の適用「吟味した結果を基に判断を下す」,5)自己評価「一連の作業を振り返る」
上村 浩一
23-25. 〃環境保健
環境と健康,環境問題の質の変化,地球環境問題,生態系,食物網と生物濃縮,環境汚染物質の吸収・排泄,生物学的半減期,中毒学に関する用語,耐容一日摂取量,公害,公害防止対策,公害健康被害補償制度,環境基準,廃棄物処理,ダイオキシン類の健康影響とそのリスク評価
有澤 孝吉
26-28. 〃産業保健
産業疲労とストレス,作業方法と健康,勤務体制,塵肺,職業関連疾患,産業中毒,産業医
上村 浩一
29-31. 〃成人保健(悪性新生物)
日本におけるがんの記述疫学的特徴,がん死亡,がん罹患,各論(胃がん,肺がん,肝臓がん,大腸がん,乳がん,その他のがん),生活習慣と主部位のがん,がん検診の有効性
上村 浩一,非常勤講師
32-33. 〃成人保健(循環器疾患)
脳血管疾患の分類,脳血管疾患の死亡率,罹患率の動向,病型別の危険要因,虚血性心疾患の死亡率,罹患率,危険要因,循環器疾患の危険要因としての高血圧,日本人の血圧,高血圧の危険要因,高脂血症,日本人の血清総コレステロール値の年次推移,食事と血清コレステロール,Keysの式,肥満・身体活動と高脂血症,循環器疾患の予防
上村 浩一
34-35. 〃公衆栄養
日本人の食事摂取基準(2005年版),推定エネルギー必要量,生活習慣病の危険性と肥満度,運動指導とエネルギー必要量,食物繊維,脂質,脂肪酸摂取比率,蛋白質推奨量,ナトリウム,カルシウム,ビタミン,国民健康・栄養調査,食品衛生法
有澤 孝吉
36. 〃精神保健
主要な精神障害の現状と動向,入院制度,精神障害者の社会復帰,精神保健福祉法
石元 康仁 (非常勤)
37-38. 〃感染症予防
感染症の疫学的事項,incubation period,latent period,attack rate,zoonosis,epidemic,pandemic,感染経路,Basic Reproductive Number (R0),ヒト集団における感染症流行の条件,感染症法のポイント,感染症類型,主な感染症の最近の動向,検疫感染症,感染症発生動向調査,感染症予防,予防接種,感染症流行予測調査,学校感染症,各ワクチンの要点,感染症集団発生のケーススタデイ(epidemic curve,オッズ比による原因食品の推定)
有澤 孝吉
39-43. 〃医用統計学
母集団と標本,データの種類と統計量,ヒストグラム,平均と標準偏差,標準誤差,母平均の区間推定,母平均の検定(1標本のz検定,1標本のt検定),平均値の差の検定(独立2群,分散が等しい場合,対応のあるt-検定),分散分析法,多重比較,割合の検定(2項分布1標本の検定,カイ2乗検定,Fisherの直接確率法),割合の区間推定,相関と回帰
44-46. 〃衛生行政・地域保健・社会福祉
衛生行政の沿革,衛生行政の組織,地域保健法,健康危機管理,医療の歴史,医療圏,医療施設,保健医療従事者,保険医療制度,国民医療費,社会保障,社会福祉
森岡 久尚(非常勤)
47-48.公衆衛生持論国際保健
世界の保健問題,国際保健協力
中村 安秀 (非常勤)
49-50. 〃母子保健
母子保健の現状と動向,母子保健法,母体保護法
津田 芳見 (非常勤)
51. 〃終末期医療
生命倫理,インフォームド・コンセント
近藤 彰(非常勤)
52.人類遺伝中堀 豊

評価

1. 講義:筆答試験(多肢選択+論述), 1)多肢選択問題により公衆衛生学全般の基本知識を評価, 2)論述問題により到達目標の理解度を評価
2. 実習:レポート提出,発表会, 1)テーマの設定・調査・分析の過程を評価, 2)発表および質疑応答の評価, 3)報告内容の評価

教科書

教科書:鈴木庄亮,久道茂編 シンプル衛生公衆衛生学(南江堂),または岸玲子,古野純典,大前和幸,小泉昭夫編 NEW 予防医学・公衆衛生学(南江堂),参考書:田中平三,疫学入門演習-原理と方法-(南山堂),2007年国民衛生の動向(厚生統計協会)

連絡先

中堀 豊 (633-7455) nakahori@basic.med.tokushima-u.ac.jp
オフィスアワー: 月・金 12:00∼13:00
有澤 孝吉 (633-7071)
オフィスアワー: 水 17:00∼

備考

1.中堀教授,有澤教授,上村講師以外に,地域公衆衛生領域に実際に従事している非常勤講師が講義,実習を担当する.
2.1/3以上の欠席は試験の受験資格を与えない.