2008年度 徳島大学 共通教育 教養科目群 — 毎年(前期)

人間と生命 / 教育における生命と美

Humanity and Life / Life and Beauty on Education

平成19年度以前の授業科目:『人間と生命 / 教育における生命と美』

平成16年度以前 (医保は17年度以前) の授業科目:『教育学 / 教育における生命と美』

助教・弘田 陽介

2単位

 火(9・10) 全(全)

授業の目的

文科省が現在でも掲げる「生きる力を育む教育」のみならず,歴史的に<教育>と呼ばれる営みは,「生きている実感」を伝えることを根本的な課題としてきた.近代教育を方向付けた18世紀後半からのドイツの思想潮流は,そのような実感を美学(Ästhetik)によって規定しようとする歴史を持つ.その思想潮流は,現在でも私たちが教育を語る言葉のリソースとなっているが,生の感覚と美の感覚を同じ土壌で語り,それを伝達可能なものとする論理を有してきた.本授業では,そのような論理の成り立ちを,近代美学を確立したカントの『判断力批判』から辿り,現在の私たちにまで引き継がれている近代教育の基調的メンタリティー生命と美の結びつきーを把握していく.

授業の概要

授業の前半は,カント『判断力批判』の特徴的な箇所に即して,美学という問題の成り立ちを探る.授業は講義のみならず,受講者のテキスト読解についての小発表を交えて,進められる.また後半は『判断力批判』の主題に別の形から挑んだベルクソンの記憶論を経由して,現在進展がめざましい人間工学―生命論,脳科学,メディアテクノロジー論―の理論までを概観する.学期末にはレポートを課すが,授業内容から私たちがもっている狭義の<教育>という枠組みを越えた,生命と美の伝達という学際的問題領域について考察を進めてみる.

キーワード

生命,美,近代教育,カント

受講者へのメッセージ

講義形式の授業ですが,皆さんと関心を共有するために,授業内で課題発表などを行ってもらいます.課題は大変かもしれませんが,今後皆さんが専門とする学科とのつながりを見つけて行ければと思います.

到達目標

1.歴史的な哲学文献を丁寧に読解していくこと,そして,そのような古典を通して,私たちが生きている現代的状況を解釈していくことを目標とする.またカントの著作はドイツ語の原典を参照するが,翻訳書を原典の言葉遣いを意識しながら読みこなしていくことも課題となる.

授業の計画

1.イントロダクション 生命と美の結びつきという講義の問題関心
2.教育の歴史における生命と美
3.カント『判断力批判』の問題設定(カント哲学の概説)
4.美はどのように感じられるのか(カント『判断力批判』上)
5.美とはいかなる感覚なのか(カント『判断力批判』上)
6.美はどのように伝わるのか(カント『判断力批判』上)
7.生命の感覚としての共通感覚論(カント『判断力批判』上)
8.生命の多様性の認識(カント『判断力批判』下)
9.生命と美という共通の地平(カント『判断力批判』下)
10.カント以後の生命論と美学
11.ベルグソン記憶論における生命の把握
12.現在の美学・感覚論(脳科学・メディアテクノロジーとの接点)
13.現在の生命論(動態的生命観や浦沢直樹x手塚治虫『PLUTO』など)
14.教育における美と生命 まとめ(1)
15.レポートの課題についての説明とレポートの書き方概説
16.教育における美と生命 まとめ(2)

成績評価の方法

小発表など授業への取り組みを評価(50点).学期末レポート(50点).

再試験の有無

教科書

I.カント,篠田英雄訳『判断力批判』(上)(下)岩波文庫

連絡先

弘田(yhirota@ias.tokushima-u.ac(no-spam).jp)
オフィスアワー: Eメールアドレス byu00616@nifty.com