2010年度 総合科学部 人間社会学科 国際文化コース 文化情報サブコース 学部課程 — 2年(後期)

2010年度 総合科学部 人間社会学科 国際文化コース 哲学·思想サブコース 学部課程 — 2年(後期)

2010年度 総合科学部 人間社会学科 国際文化コース 歴史·社会サブコース 学部課程 — 2年(後期)

理論社会学研究(その1)

教授・吉田 浩

2単位

目的

「『歴史と階級意識』におけるルカーチの弁証法復権の試みの意義と問題点」と題して講義する.ジョルジ・ルカーチが偉大な研究者であったことは事実である.しかしながら彼の『歴史と階級意識』だけは,池田浩士編訳の『論争歴史と階級意識―20世紀思想の根幹を問う国際的大論争』という本が出版されていることからも判るように,国内外を問わず賛否両論が渦巻いているのである.この論争に明確な決着をつけること,このことを本講義の目的とする.そのためには,そもそもルカーチが弁証法の復権を試みざるをえなかった当時の理論状況をまずもって解明しておきたい.それは,歴史を,とりわけ近代資本主義制社会の歴史を硬直的にしか捉えることのできないウェーバーの物象化論だったのである.近代資本制社会を「鋼鉄の檻」として硬直的にしか捉えることが出来なかったウェーバー理論に対して,ルカーチは弁証法を復権して,近代社会は躍動的に自己運動しているのみならず,他の社会類型へと転換することを迫る革命に満ちた生きた事態だということを示したかったのである.しかしながら弁証法といっても,ヘーゲルの弁証法とマルクスの弁証法とがある.両者は多々類似性を示しつつも,基本的には大きく異なっているのである.ところが復権されたルカーチの弁証法は皮肉なことに,マルクスによって克服されていたはずのヘーゲルのそれであったのであり,ここに『歴史と階級意識』の基本的誤謬があった.しかしながら「ヘーゲル論理学から『資本論』へ」という弁証法の発展的系譜関係という最重要な研究を初めて試みたのはルカーチの同書であって,そこに数々の誤謬があったこともやむをえないことであった.本講義は,ルカーチの試みの意義と問題点を明らかとしつつ,『歴史と階級意識』をめぐる論争に決着をつけたい.

概要

物象化論という歴史を硬直的にしか捉えることの出来ない立場の問題性を明らかとしつつ,この物象化論はヘーゲルの弁証法ではなくて,マルクスのそれによってのみ解決することが出来ることを示す.

キーワード

物象化,鋼鉄の檻,歴史の自己廃棄,弁証法,総体性,自己運動,矛盾

注意

少々難解ではあっても,学的真理を求めてくらいついてくる学生諸君の受講を望む

目標

1.現実をウェーバーのように抽象的,一面的に捉え,従って現実を生命のない死んだ硬直的事態と看做すのではなく,現実を具体的,全面的に把握し,それを生きた生動的事態として掴まえる弁証法の方法を学ぶ

計画

1.弁証法の復権の試みを行ったルカーチの『歴史と階級意識』のアクチュアリティ― レーニン,K・コルシュの理論との対比において
2.「歴史の自己廃棄」の立場に陥っているウェーバーの物象化論
3.『ドイツ・イデオロギー』段階におけるマルクスの物象化論
4.資本主義経済の内部構造の把握とこの構造の力動的自己運動を洞察する『資本論』段階のマルクス―後期マルクスにおける物象化論の放棄
5.復権されたルカーチの弁証法は主体,客体の同一というヘーゲルの弁証法であった
6.神秘的な主体,客体の同一という弁証法の問題点
7.マルクスの弁証法は資本主義経済の内部構造を生きた有機的総体として捉え,続いてこの有機的総体の自己運動という運動法則を洞察するものであった
8.そのために必要となるマルクスの方法の独自性
9.以上の考察に基づくルカーチによる『歴史と階級意識』の総括―そのアクチュアリティーと様々の諸問題

評価

試験の際のレポートと,講義内容に対する疑問,問題点を指摘する小レポートとによって総合的に評価する.疑問,問題点の指摘に対しては講義で答える.

再評価

教科書

私は本講義内容を単著として出版するつもりであるので,現段階では教科書は無し

参考資料

授業の中で紹介していく

連絡先

吉田(連絡先未登録)
オフィスアワー: 水曜日 12時∼13時
矢部(1228, 088-656-9311, yabe@ias.tokushima-u.ac(no-spam).jp)
オフィスアワー: 木曜日12:00∼12:45(時間帯は随時メールにてご相談下さい)

備考

教職単位として受講する場合には2単位でよい